新東名に刻む深夜の咆哮
週末の午前3時。ガレージの重いシャッターを上げ、冷え切った空気を愛車の排気音が切り裂く。
我々のような塊根植物(コーデックス)に魅了された人種にとって、関東のショップを巡るだけでは満たされない渇きがある。
その渇きを癒やすべくステアリングを向けるのは、西。
愛知を中心とした東海エリアという「深淵」です。
この長距離遠征において、まず徹底すべきは高速道路の戦略的な利用。
新東名高速道路は、路面精度が極めて高く、カーブのRも緩やかで、愛車への負担を最小限に抑えつつ距離を稼げる至高のルートです。
ここで重要になるのがETC深夜割引の活用。
午前0時から4時の深夜帯を駆け抜ければ、通行料金は30%の減額となります。
北関東の郊外から豊橋までの往復で浮く数千円は、決して端金(はしたがね)ではありません。
それは、アガベ・チタノタ(Agave titanota)を彩る、より重厚な陶器鉢一点分の資金へと姿を変えるからです。
夜明け前の山並みを背景に、長く続く高架橋を駆け抜けながら、高回転域で安定するエンジン音に耳を傾ける。
これから出会うであろう一点物との対峙に備えて神経を研ぎ澄ます。
この移動時間こそが、単なる買い物ではない、真の巡礼としての重みを与えてくれるのです。
豊橋「garage」と名古屋の古豪を巡る
豊橋市に降り立ち、まず目指すべきは「garage(ガレージ)」の本店。
ここは、我々のようなガレージライフを愛する者にとって、一つの理想郷と言えるでしょう。
錆びた鉄、使い込まれた古材、剥き出しのコンクリート。
無機質な空間の中に、圧倒的な生命力を持って鎮座するパキポディウム・グラキリス(Pachypodium gracilius)の姿は、まさに動かざる彫刻。
広大な敷地内には、大型の多肉植物から希少な塊根までが、その個性を最大限に引き出すディスプレイで配置されています。
都心の狭小な店舗とは異なり、地方ならではの余裕ある空間設計は、我々の住む郊外のガレージにも通ずる「引き」の視点を与えてくれます。
さらに足を伸ばし、名古屋市内の老舗「坪井健樹園」へと向かう。
ここは華美な装飾を排し、植物そのものの質で勝負する真のプロフェッショナルたちが集う場所です。
迷路のようなハウス内を巡れば、輸入されたばかりの荒々しい現地球から、国内でじっくりと時間をかけて作り込まれた実生株まで、その層の厚さに圧倒されるはず。
特に、樹齢を重ねたオペルクリカリア・パキプス(Operculicarya pachypus)の、岩肌のような質感と繊細な葉のコントラスト。
それを直に、自分の目で選び抜く。
これこそ、往復数百キロの距離を走破した者だけが手にできる特権に他なりません。
地方の有名店は駐車場も完備されており、愛車のすぐ隣で、今日という日に選んだ相棒を積み込める。
この利便性もまた、遠征を後押しする重要なファクターとなります。
帰路の静寂とラゲッジスペースに宿る新たな生命
すべての目的を果たし、陽が傾き始めた頃、再び東名へと駆け上がる。
帰路の車内は、往路の高揚感とは打って変わり、心地よい疲労と達成感に満ちた静寂が支配します。
バックミラー越しに見えるのは、丁寧に固定された戦利品。
アガベの鋭い棘や、パキポディウムの丸みを帯びたフォルムが、車内の影の中で独特の存在感を放っています。
ここで忘れてはならないのが、車内の温度管理と、植物の固定に対する執念です。
急ブレーキや急旋回は、大切なコレクションの鋸歯を損なうだけでなく、鉢の破損にも繋がりかねません。
ガレージから持ち出した緩衝材を隙間なく詰め、重厚な段ボールでベースを固める。
この積み込みの美学を完璧に遂行してこそ、真のコレクターと言えるでしょう。
拠点へ戻る頃には、ETCの休日割引が適用される時間帯に入っているかもしれません。
浮いたコストで、帰宅後に祝杯を挙げるのもいい。
しかし、ガレージに辿り着き、シャッターを下ろしたその瞬間から、本当の戦いが始まります。
持ち帰った株をどこに配置し、どの角度からライティングを当てるか。
東海エリアへの巡礼は、単に植物を増やす行為ではなく、自分の聖域(ガレージ)を再定義するための旅。
エンジンの熱が冷めやらぬまま、暗闇の中で新たな植物と向き合う時間は、何物にも代えがたい至福の瞬間となるはずです。

